篠田正浩監督の記念すべきデビュー作『恋の片道切符』が公開されたのは、いまからちょうど50年前の1960年4月のことでした。同年の第2作『乾いた湖』で一躍「松竹ヌーヴェル・ヴァーグ」の旗手として注目を集めた篠田は、その後も詩人・寺山修司や作曲家・武満徹など異種の才能とのコラボレーションを通して新たな映画表現の可能性を探り、1964年の『乾いた花』や『暗殺』、翌年の『美しさと哀しみと』で独自のスタイルと日本的な様式美を確立することになります。
また、1965年に松竹を退社した後は「表現社」を中心とする独立プロへ活動の場を移して『心中天網島』(1969年)、『沈黙』(1971年)などの作品で新しい時代の日本映画をリードし、1980年代以降も『瀬戸内少年野球団』(1984年)、『少年時代』(1990年)、『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(1997年)の「少年三部作」に代表される良質な日本映画をコンスタントに発表するかたわら、『鑓の権三』(1986年)のベルリン国際映画祭銀熊賞受賞、そして『舞姫』(1989年)、『スパイ・ゾルゲ』(2003年)のような国際的スケールの作品でも大きな話題を振りまいてきました。
本企画では、監督引退を公言した『スパイ・ゾルゲ』にいたる29本の劇映画に長篇記録映画1本を加えた計30作品の上映を通して、我が国が世界に誇る映画監督・篠田正浩の足跡とその世界を回顧します。