吉田喜重監督の記念すべきデビュー作『ろくでなし』が公開されたのは、いまからちょうど50年前の1960年7月のことでした。一躍「松竹ヌーヴェル・ヴァーグ」の旗手として注目を集めた吉田は『秋津温泉』(1962年)、『嵐を呼ぶ十八人』(1963年)などの作品で企業映画の定型を破り、また1964年に『日本脱出』の一部がカットされたのを機に松竹を退社、「現代映画社」を中心とする独立プロに活動の場を移してからは、性と政治、日本の近代化がはらむ矛盾を鋭く追及する一方、まばゆいハイキー・トーンのモノクロ撮影や余白を残した構図、鏡や水、日傘などのモチーフで独自のスタイルを確立しながら、日本映画の前衛を牽引していくことになります。
とりわけ時空間が交錯する実験的な話法を試みた『エロス+虐殺』(1970年)のフランス公開後は国際的な評価も高まり、さらに『戒厳令』(1973年)の発表後はテレビ・シリーズ「美の美」(1974-1977年)や『BIG1物語 王貞治』(1977年)などドキュメンタリーとの間を往還しながら、作家と映画表現の関係を問い続けてきました。そして、2003年には13年振りの劇映画となる『鏡の女たち』を発表。2008年にはパリのポンピドゥ・センターでも大規模な回顧上映が開かれるなど、その作品世界に新たな注目が集まっています。
本企画では、劇映画全19作に、長・短篇の記録映画を加えた計43本(24プログラム)の上映を通して、映画監督・吉田喜重50年の足跡を回顧します。