今年は、戦後の日本映画に類い稀な光彩を与えた名匠・川島雄三監督が、その畢生の代表作である『幕末太陽傳』(1957年)を発表して半世紀の節目となります。19年間という決して長くはない監督人生を駆け抜けた川島監督の映画は、ダンディズムあふれる監督自身の生き様とともに語り継がれ、今も多くのファンに愛されています。
1918年、青森県の下北に生まれた川島監督は、映画青年として学生時代を過ごした後の1938年に松竹大船撮影所に入社、渋谷実監督らのもとで助監督経験を積みました。戦時下の1944年に『還って来た男』で監督昇進を果たすと、戦後はナンセンス・コメディをも含む一連の喜劇を発表します。日活に移籍してからはさらにその才能が開花、喜劇だけでなくメロドラマ、文芸映画、サスペンス映画などさまざまなジャンルに名作を残しました。喜劇では『愛のお荷物』(1955年)や『貸間あり』(1959年)のような軽快な風刺から『しとやかな獣』(1962年)のような辛辣なタッチに至るまで幅広い演出力を見せる一方、メロドラマにおいては『洲崎パラダイス 赤信号』(1956年)などを通じて人間存在のはかなさに迫りました。東京映画、大映などさまざまな撮影所からも招かれる人気監督として、『雁の寺』(1962年)や『青べか物語』(1962年)といった文学作品の映画化でも高い評価を得ましたが、さらなる活躍の期待されていた1963年、51本目の作品となる『イチかバチか』を遺して45歳の若さで急逝しました。あえて軽佻浮薄な戯作者を自称し、「サヨナラだけが人生だ」の墓碑銘を得たその作品群には、常に人生に対する諦念と、その中で生きることの哀歓が刻み込まれています。
フィルムセンター初の川島監督特集となるこの企画では、新たに所蔵フィルムとなった、上映機会の少ない松竹時代の作品を加えて、同監督の特集としては史上最大となる計39作品が上映されます。いつまでも褪せることのない川島演出の輝きと質感をこの機会に是非ご確認ください。
■(監)=監督 (製)=製作 (原)=原作・原案 (脚)=脚本・脚色 (撮)=撮影 (美)=美術 (音)=音楽 (出)=出演
■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。