多言語・多民族の社会と文化を土台としながら、近年は著しい経済発展の面でも注目されているインドは、一方で世界最大の映画大国としても広く知られています。
現在、映画産業の中心地ムンバイ(旧ボンベイ)の映画界は“ボリウッド”と呼ばれるほどの隆盛を極め、その作品は世界各国に輸出されていますが、インドはその遥か前から、それぞれの地方で個性豊かな映画文化を紡ぎ上げてきました。
不世出の“映画王”ラージ・カプールや伝説的な名監督グル・ダットに端を発し現在も国内映画産業の中核をなすムンバイ産のヒンディー語映画、世界的な巨匠サタジット・レイを輩出した東部のベンガル語映画、G・アラヴィンダン監督作品の醸し出す悠然としたリズムが日本の映画ファンにも支持された南西部ケーララ州のマラヤーラム語映画、きらびやかな娯楽性と強烈な民族性が共存する南部のタミル語映画など、各地の映画人たちが競い合うように多面的な映画史を形作ってきました。
また、歌や踊りを取り入れた娯楽作や華麗なスター映画はもちろん、悲痛なラブ・ストーリー、民衆生活に寄り添った作品、硬質な社会派作品など、テーマや作風の多様さにおいてもインド映画の魅力は尽きることがありません。
2007年「日印交流年」の記念事業として、この実り豊かなインド映画の歴史の中から、1980年代までに製作された名作32本を一挙上映する今回の企画は、フィルムセンターにおけるインド映画の上映としては過去最大の規模となります。歴史の中でさまざまな光彩を放ってきた、インド映画の万華鏡のような魅力を存分にお楽しみください。