1920年代から80年代まで個人映画の先駆者として活動した荻野茂二の8mm・9.5mm作品を35㎜プリントにブローアップして上映する。これまで1930年代の実験的な作風が評価されてきた荻野だが、自身は記録としての映画の重要性を強調していた。その意識は、東京オリンピックを契機に開発が進んだ東京を描く2作品に顕著に現れている。『日本橋』は首都高速を高架に建設した日本橋の変容を1962年から3年間かけて撮影した。『都電60年の生涯』では、1929年の自作『電車が軌道を走る迄』のフッテージを用いて軌道敷設の様子を示し、路面電車の栄枯盛衰から東京の街並の変貌を明らかにした。『スト決行中』は公共企業体等労働組合協議会(公労協)が行った1975年11月の大規模スト権ストを撮影。池袋駅の混乱ぶりに非日常的な緊張感が漂う。『智慧の登山』は科学の豆知識を登山に応用した劇仕立ての佳作。全日本パテーシネ協会関東支部の浦安撮影会『SCREEN GRAPH オール・ニッポン』は戦前のアマチュア映画愛好家の活動が分かる数少ない記録。『時計』にはマクロレンズを用いた撮影に荻野の実験的な作風が垣間見える。