のちに怪談映画で知られることになる中川信夫監督が、東宝で手掛けた夏目漱石作品の映画化。漱石が専業作家に転身後はじめて発表した長篇「虞美人草」(1907)は、溝口健二監督がかつて映画化し(第一映画、1935)、これが2度目。甲野欽吾(高田)とその腹違いの妹・藤尾(霧立)。藤尾には、兄の親友で遠縁でもある許嫁の宗近一(江川)がいたが、彼女自身は、小野(北澤)という青年を気に入っていた。だが、小野にはすでに恋人の小夜子(花井)がいて・・・。場面転換を巧みに行うことで、原作の入り組んだ人間模様をうまく再現している。