長く厳しい冬が過ぎるまで、熊はこんこんと眠り、生きる力を蓄える
多摩丘陵に暮らす兄と弟。両親の死後、生家である団地に戻り2人きりの生活を営んでいた。兄は恋人が浮気相手と旅行中に事故死したことが原因で失声症となる。季節は冬。弟は兄の回復を待つが…。高台から見晴るかす風景、兄弟が興じる釣り、春の光に溶けかけた雪―─それらはすべて、自然と共に自由に生き死ぬことを肯定している。
言葉の力によりながら、お互いを見つめるまなざしが重要な意味を持っている。声を発することをやめた兄は、「冬眠する熊」だ。言葉を発しない熊は、絵を描くことや贈り物をすることで意志を伝える。兄から贈られた茶色いニットを着て弟が兄と収まる写真は、弟もまた熊であることを示しているかのようだ。弟も兄を見つめることしかできない。観客もまた、それをただ見つめることしかできない。来るべき春を待ちながら。 文:小川原聖子(書店員)