その土地で生きる困難と、生きる甲斐。つくり手と対象者たちの信頼関係がにじむ、“生でリアルな記録”
宮城県南三陸町にある波伝谷部落。3.11までの3年間、海と共に生きる人びとの濃密な小世界を一途に追い続けたドキュメンタリー。1年に1度の獅子舞に皆が集まり、家族・親族総出で海の仕事を支え合う。民俗学から出発した我妻監督は、閉じられた共同体特有の原初的な共生のあり方を、人びとの暮らしから凝縮した。共同体が社会の変容とともに衰退して行くなか、人間の蠢く生が露呈する。
養殖で痩せていく海、血が決める共同体のパワーバランス、気づきながらも動かせない現実。波伝谷の人びとが頑に守り続けてきた人と人の共生のあり方にひずみが生まれ出す。ほころびは揺れ動く前からすでにあったのだと痛みと共に思い知る。遠くかけ離れた波伝谷の暮らしも当然我々と同じ時間軸にあることを忘れてはならない。意識を広げれば思いが共有できる瞬間がある。 文:木下雄介(映画監督)