安らかな安定と不安な自由。小さな主人公が、大きな決断を迫られる
学校で理科の教鞭を執っている者にとって、本作品は実に興味深く、隅々まで科学的好奇心を想起させられた。どこかで見覚えのある造形群は作者の映画体験の蓄積を物語っていると同時に、細胞分裂や地殻変動、エントロピーと不可逆性など、科学的素養の深さに思わず嫉妬する。しかし、その一方で想像と創造が入れ子のように連なり、生命誕生と宇宙創世を匂わせた曼荼羅的世界観は、秩序とは相反する混沌の渦の中に迷い込ませる。“カオス”の対義語を調べてみるとその答えは“コスモス”。この瞬間、主人公である片眼のハンプティ・ダンプティ(勝手にそう呼んでいる)は、まさにカオスとコスモスをつなぐ「LIFE」の存在証明であったと確信した。主人公が目を覚ますといつもの庭園があり、空を鳥がゆらりと泳いでいる。まるで全てを悟った者のように。 文:中山康人(教師)