大ホール上映作品 日韓友情年2005
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1 | 12/8(木)3:00pm | 12/18(日)1:00pm | 12/21(水)7:00pm |
1956年に『交叉路』でデビューした当初から韓国映画の期待の星とみなされていた兪賢穆監督の4作目にあたる犯罪メロドラマ。刑務所から出てきた男(李龍)が、昔の恋人(都琴峰)が暗黒街のボス(崔湳鉉)の妻となったことを知り、ついには復讐に走る。1950年代後半は製作される映画の半数以上がメロドラマという時期で、兪監督の初期作品もその流れの中に置かれたが、人物関係を形式的になぞる旧来のメロドラマに対抗した兪監督は、キャメラワークや人物の動きに注意を払った演出で新感覚を付け加えた。ヒロインを演じた都琴峰は、のちに『離れの客とお母さん』(1961年)などの申相玉作品で盛んに起用される中堅女優。
’57(三星映画)(脚)朴成浩(撮)邊仁楫(美)李奉先(出)都琴峰、崔湳鉉、李龍
2 | 12/6(火)7:00pm | 12/17(土)1:00pm | 12/21(水)3:00pm |
朝鮮戦争休戦後の荒廃した世情を背景に、ソウルの一市民の底知れぬ苦悩を容赦なく描いた兪監督の代表作にして、いまや韓国映画史上屈指の名作である。貧困社会を直視したそのリアリズムの高い達成は、クーデターで権力を握ったばかりの朴正熙政権によって公開禁止にされたほどだった。その設定は兪監督も指針としたイタリアのネオレアリズモを想起させるが、主人公を襲う歯痛の表現には鋭利なシンボリズムも垣間見える。主人公を演じた金振奎は、その後兪監督ら主要な演出家たちの信頼を受けてスターダムを駆け上がった。またキャメラマンの金學成は、日本の新興キネマで岡崎宏三らとともに撮影を学んだのち祖国に戻って映画界に貢献した人物で、最近、その生涯を追った記録映画も作られた。
’61(大韓映画製作)(原)李範宣(脚)李鍾璣(撮)金學成(美)白南俊、李壽珍(音)金聖泰(出)金振奎、崔戊龍、文貞淑、徐愛子、金惠貞
3 | 12/7(水)3:00pm | 12/17(土)4:00pm | 12/25(日)1:00pm |
李氏朝鮮の時代から日本支配下の1930年代までの激動期を、半島南端の町統営に暮らす四人姉妹を通して綴った年代記。著名な女性作家・朴景利の原作をもとに、四人それぞれに降りかかる悲劇を重厚かつ流麗なタッチでさばき、国内の主要な映画賞をさらった。青春スターの厳鶯蘭がソウルから帰郷した学生の次女に扮して可憐な姿を見せているほか、スターたちの競演も素晴らしい。またシャーマニズムとキリスト教の対立など、近代化の中に置かれた韓国社会の姿も透けて見える。
’63(極東興業)(原)朴景利(脚)劉漢徹(撮)邊仁楫(美)李奉先(音)金聖泰(出)黄貞順、金東園、崔智姫、厳鶯蘭、姜美愛、許長江、朴魯植、黄海
4 | 12/8(木)7:00pm | 12/16(金)3:00pm | 12/24(土)4:00pm |
内戦中の平壌で、北の人民軍が12人の牧師を殺害するという事件が起きる。だが、その場から生還した牧師(金振奎)は沈黙を守り、事件の真相を語ろうとはしなかった…。アメリカに住む韓国人作家・金恩國の小説をもとに、キリスト者としての兪監督が“神の存在”についての思索をめぐらせた文芸大作で、廃墟の壮大なセットを用いて、硬質かつ隙間のないドラマが展開される。この映画は、神の不在を宣言したものと誤解され、当時のキリスト教関係者から批判されたが、そのことは兪監督が15年後に『人間の子』を演出するきっかけにもなった。
’65(合同映画)(原)リチャード・E・キム[金恩國](脚)李眞燮、金剛潤(撮)沈載興(美)李奉先(音)韓相基(出)金振奎、南宮遠、張東輝、朴巌、尹一峯、全昌根
5 | 12/9(金)7:00pm | 12/20(火)3:00pm | 12/24(土)1:00pm |
朴正熙政権が推進した、農村振興のための“セマウル運動”の思想にのっとって製作された一本。近代化する世の中を苦々しく思う頑固一徹の農夫(金振奎)が、それまで反対していた貯水池の建設の意義に目覚め、ついには村人たちも彼の考えを理解してゆく。貧困からの脱出がテーマになってはいるが、韓国の農村社会や、伝統的な大家族の構造がくっきり見える点でも興味深い。アイドル・スターとして一世を風靡した厳鶯蘭がここでは従順な農家の嫁を演じ、金洙容作品『浜辺の村』(1965年)の新星・高銀児が、農夫の息子のガールフレンドとして愛らしい姿を見せている。
’65(極東興業)(脚)金志軒(撮)邊仁楫(美)盧仁澤(音)金東振(出)金振奎、厳鶯蘭、許長江、李楽薫、高銀児、金東園、李藝春
6 | 12/10(土)1:00pm | 12/14(水)7:00pm | 12/22(木)3:00pm |
近年の韓国映画史研究は、兪監督は“芸術映画の巨匠”であるばかりか、やむなく演出したという娯楽作品にも豊かな才能を発揮したことを指摘している。その代表となるであろう本作は、一つ屋根の下に暮らす3世代6人の夫婦をめぐるコメディで、夫の給料袋を先に押さえようとする妻たちと、何とかして遊びに繰り出そうとする夫たちの“男女戦争”を、当時随一の芸達者や人気スターが軽快に演じている。とりわけ浮気者の課長を演じる許長江のコミカルな芝居が笑いを誘う。許長江は、大ヒット作『シルミド』(2004年)で知られる俳優・許埈豪の父。
’67(合同映画)(脚)金志軒(撮)チェ・ヨンジ(美)洪性七(音)李鳳祚(出)崔湳鉉、黄貞順、許長江、趙美鈴、申星一、高銀児
7 | 12/10(土)4:00pm | 12/16(金)7:00pm | 12/18(日)4:00pm |
肺ガンで余命いくばくもない無頼の男(李純才)、その友人である医師、そして日本から戻ってきた半端な芸術家。3人の男たちは、それぞれ過去のしがらみを背負った女たちと知り合うが、中でも新人女優・文姫が演じた、男の部屋に転がり込んできた女が強い印象を残す。後に兪監督は映画全体に虚無的なムードを漂わせることに苦心したと語ったが、そうした雰囲気の中で語られる男たちの友情はどこか同時期の日活映画を思わせる。夜間外出禁止令(午前0時から5時まで)があったこの時代、最終列車には他国にはない特別な意味があった。
’67(韓国映画=東洋映画興業)(原)洪盛原(脚)李相泫、李恩成(撮)閔貞植(美)朴石人(音)韓相基(出)李純才、文姫、成薫、南貞姙、金聲玉、安仁淑
8 | 12/9(金)3:00pm | 12/11(日)1:00pm | 12/22(木)7:00pm |
この時期の韓国には「反共映画」という独自のジャンルがあり、必ず儲かるとされた外国映画の輸入権はその製作者に与えられやすかったため、兪監督もこうした映画への参加を余儀なくされた。解放後(1946年)の農村を舞台に、コミュニズムの浸透を描いた本作もそう分類されるが、むしろ村人たちがイデオロギーの転回に翻弄される様に照準を当て、それを人間の“原罪”とみなすことで教条的な反共宣伝を回避している。『終電で来た客たち』に続いて文姫がヒロインとなったが、何よりも老人を演じた朴魯植のデモーニッシュな演技に注目すべきだろう。
’68(韓国映画=東洋映画興業)(原)黄順元(脚)李相泫(撮)李石出(美)朴石人(音)金東振(出)金振奎、文姫、朴魯植、張東輝、崔峰
9 | 12/11(日)4:00pm | 12/15(木)7:00pm |
『誤発弾』や『殉教者』の主演者として、生きることの “苦悩” を一身に体現してきた金振奎が、あろうことかヒゲ面のままお調子者の中年画家に扮し、憧れの未亡人(趙美鈴)と結ばれるまでを描いた1930年代ハリウッド風のロマンティック・コメディ。兪監督はこうしたジャンルの演出を好まないと述懐しているが、よどむことのない軽妙なタッチは余裕さえ感じさせる。なお、瓶底メガネの昆虫学者に扮した呉鉉京は演劇俳優で、『8月のクリスマス』(1998年)で主人公の写真店主の妹を演じた呉芝惠の父親にあたる。
’68(泰昌興業)(原)朴祚烈(脚)金貞玉、イ・ユミン(撮)李石出(美)李文鉉(音)韓相基(出)金振奎、趙美鈴、孫芳園、呉鉉京、楊薫
10 | 12/7(水)7:00pm | 12/13(火)3:00pm | 12/25(日)4:00pm |
舞台は西の海に浮かぶ仙遊島の小学校。貧しくて島外の世界を知る由もない子どもたちに、単身赴任の先生が大都会ソウルを見せてやりたいと奮闘する。好奇心の赴くままにソウルを闊歩する子どもたちを活写した兪監督は、それと同時に、都会と辺境の経済格差や、廃線直前の路面電車などを通じて韓国社会の変貌も映画に取り込んだ。なお教師役の具鳳書は、人なつこい雰囲気と、フランキー堺をほうふつとさせる外見が印象的な、喜劇界の大御所である。また本作は、国内の映画賞だけでなく、テヘラン国際映画祭児童部門でも特別賞を受賞している。
’69(東洋映画興業)(脚)李相泫(撮)閔貞植(美)キム・ホグン(音)金東振(出)具鳳書、文姫、黄海、張東輝
11 | 12/13(火)7:00pm | 12/15(木)3:00pm | 12/23(金・祝)1:00pm |
朝鮮戦争のさなか、全羅南道の農村に住む少年の家にソウルから親戚一家が逃げてきた。父方と母方の二家族が同居する中、二人の叔父はそれぞれ南北の軍に入り、二人の祖母(黄貞順・金信載)は厳しく反目するが…。慈しみ深い母親を演じさせたら右に出る者のいない、黄貞順の独演によるラストシーンが圧巻。また、そのシーンに出演する大蛇の撮影では3000フィートものフィルムを回したという逸話が残っている。梅雨時の倦怠した空気を表現した劉永吉の撮影も素晴らしく、彼はその後裵昶浩らニュー・ウェーブ世代の誕生にも貢献した重要なキャメラマンとなる。
’79(南亜振興)(原)尹興吉(脚)尹三六(撮)劉永吉(美)趙景煥(音)韓相基(出)黄貞順、金石薫、金信載、李大根、康石雨
12 | 12/14(水)3:00pm | 12/20(火)7:00pm | 12/23(金・祝)4:00pm |
その純粋さゆえに神学校をドロップアウトし、異端者だと後ろ指をさされながらも、ただ自らの心の声に従って持たざる者への施しを続けた青年。放浪のテント生活の果てに殺された彼の人生を刑事(崔佛岩)が追う。李文烈の原作が、青年の残した古代ユダヤの異端者に関するノートを読み込んでゆくメタ・フィクションであるのに対し、兪監督はむしろ青年の魂の彷徨に付き合うことを選んだ。結末の、あるじを失ったテントの空虚さは強烈な寂寥感をもって胸に迫る。青年役の河明中は1970~80年代を代表する若手スターで、早世した監督・河吉鐘の弟。また鄭一成は、巨匠・林権澤の諸作で知られる韓国撮影界の重鎮である。
’80(合同映画)(原)李文烈(脚)洪坡(撮)鄭一成(美)都庸雨(音)韓相基(出)河明中、崔佛岩、姜邰起、呉樹美、呉美燕、李純才、朱善泰