大ホール上映作品 小津安二郎生誕100年記念
小津安二郎の藝術Yasujiro Ozu: Japanese Film Master11月18日(火)- 12月27日(土)/1月6日(火)- 1月25日(日) 小津安二郎生誕100年記念についての詳細は→www.ozu100.jp 定員=310名、但しピアノ伴奏つき無声映画は300名(各回入替制) 料金=共催企画の特別料金 日時指定券:(全席自由席)1,300円 ★ピアノ生演奏つき上映 ●日時指定券は、10月18日(土)から各上映の2日前までチケットぴあで発売します。日時指定券は各上映250枚まで発売します。ファミリーマート、セブンイレブン、サンクスでも購入できます。 ■音声認識予約 0570-02-9999(10:00-18:00) ●日時指定券の払い戻し及び変更はいたしません。 その作家歴を通して練達の技を磨き、自らの厳格なスタイルを確立し、人間の生死の有様を、笑いと涙と詠嘆で彩りつつフィルムに刻み続け、映画芸術の未踏地に到達し得た監督・小津安二郎――1903(明治36)年12月12日に生まれ、1963(昭和38)年、奇しくも自らの誕生日に世を去った彼は、今年、その生誕100周年と没後40周年を同時に迎えます。この記念すべき年にはさまざまなイベントが行なわれていますが、そうした中で最大かつ決定的なものとして、松竹株式会社と東京国立近代美術館フィルムセンターは共同で、小津安二郎の現存するすべての監督作品37本と小津が原作や脚本を提供した別の監督による4本を36番組に構成して連続上映する運びとなりました。 無声時代からトーキー、カラーの時代まで映画史の節目にそれぞれの傑作、名作を発表し続けた生前の小津は、例えば、キネマ旬報年間ベストテン投票で最も多く1位入選(6回)を果たした監督として、松竹はもちろん日本映画の黄金時代全体を代表する巨匠となりましたが、没後もその芸術的声価は上がる一方であり、近年は、10年ごとに行なわれる英「サイト&サウンド」誌の権威ある「映画史上のトップテン投票」(批評家選出部門)でも、もっとも偉大な映画監督十傑に選ばれるなど、世界の映画史に大書されるシネアストとしての地位をますます確固たるものにして現在にいたっています。 2か月を越す会期に延べ53日間・157回にわたって開催される本特集は、フィルムセンターにとっても、また国内外の上映史上でも最長かつもっとも網羅的な小津監督のための回顧上映企画であり、まさに“世界のOZU”の名に相応しい規模と内容を兼ね備えたものであると言い得るでしょう。松竹の小津作品についてはすべて新たにニュープリントを起こし、『和製喧嘩友達』についてはデジタル復元版を制作し、また、無声映画についてはピアノ伴奏上映と無音上映の2種類の鑑賞形式を用意して、みなさまのご来場をお待ちしております。 小津映画が初めてという方々はもちろん、すでにご覧になった映画ファンの方々にも、さらにはテレビ・モニターでしか見たことがない方々にも、あらためてこの機会に、京橋・フィルムセンターの縦4メートルのスクリーンに繰り広げられる35mmフィルムによる真正な小津映画の銀幕体験をご堪能いただきますようお薦めいたします。 ● 同時期開催の上映企画「清水宏 生誕100年」(B1階・小ホール)と展覧会「映画資料でみる蒲田時代の小津安二郎と清水宏」も、あわせてご鑑賞・ご観覧をお薦めいたします。詳細は当該各チラシをご覧ください。 ■(監)=監督 (原)=原作・原案 (脚)=脚本・脚色・潤色 (撮)=撮影 (美)=舞台設計・美術 (音)=音楽 (出)=出演 *無声映画プログラム(※印はピアノ伴奏つき上映)
学生ロマンス 若き日(103分・35mm・白黒・無声) 調子のいい軟派学生(結城一郎)とぐうたら学生(齋藤達雄)とがスキー旅行を舞台に繰り広げる明朗な学生喜劇で、とりわけスキー場のシーンで連発されるギャグが鮮やか。小津自身の「若き日」のみずみずしいタッチが堪能できる、現存する最も初期の作品。 ‘29(松竹蒲田)(原)(脚)伏見晁(脚)小津安二郎(撮)茂原英雄(美)脇田世根一(出)結城一郎、齋藤達雄、松井潤子、飯田蝶子、高松栄子、小藤田正一、大国一郎、坂本武、日守新一、山田房生、笠智衆、小倉繁、一木突破、錦織斌、蜂野豊夫
和製喧嘩友達(14分・35mm・白黒・無声・パテベビー短縮版・デジタル復元版) 二人のトラック運転手が、迷い込んできた娘をめぐって起こす小さな諍い。1999年には発掘された9.5mm版からのブローアップ版を上映したが、今回はさらにフィルムセンター・松竹の共同でデジタル復元を施し、画面上の傷を極力消去した新しい版を作成した。 ‘29(松竹蒲田)(原)(脚)野田高梧(撮)茂原英雄(出)渡辺篤、浪花友子、吉谷久雄、結城一郎 朗かに歩め(96分・35mm・白黒・無声) 強面の謙二(高田稔)は、好きになったタイピストのやす江(川崎弘子)のために、子分の仙公ともども堅気になると決心するが、仲間はそれを許さない…。アメリカ映画の影響も色濃い典型的な与太者の改悛劇だが、高田の二枚目ぶりとラストの巧さには思わず唸る。 ‘30(松竹蒲田)(原)清水宏(脚)池田忠雄(撮)茂原英雄(美)水谷浩(出)高田稔、川嵜弘子、松園延子、鈴木歌子、吉谷久雄、毛利輝夫、伊達里子、坂本武
大学は出たけれど(11分・35mm・白黒・無声・部分) 盟友清水宏の原作を小津の10作目として発表、大スターの絹代と高田の起用が許された。題名は昭和の不況を象徴する言葉であるが、アメリカの喜劇映画に傾倒していた小津はユーモアたっぷりに描いている。 ’29(松竹蒲田)(原)清水宏(脚)荒牧芳郎(撮)茂原英雄(出)高田稔、田中絹代、鈴木歌子、大山健二、日守新一、坂本武 落第はしたけれど(64分・35mm・白黒・無声・不完全) 卒業しても就職できない学友を尻目に学生生活をエンジョイしている落第生が主人公の作品。逆を描いた『大学は出たけれど』に続いて絹代が主演、小津の青春時代を彷彿とさせる学生たちの行動、行為は明らかに米映画『ロイドの人気者』(1925年)の影響である。 ‘30(松竹蒲田)(原)小津安二郎(脚)伏見晁(撮)茂原英雄(美)脇田世根一(出)齋藤達男、田中絹代、二葉かほる、青木富夫、若林廣雄、大国一郎、横尾泥海男、関時男、三倉博、横山五郎、月田一郎、笠智衆、山田房生、里見健児
突貫小僧(14分・35mm・白黒・無声・パテベビー短縮版) 原作者名は野田高悟、池田忠雄、大久保忠素と小津の合成であり、たった3日で撮りあげた短篇喜劇。前作『会社員生活』でデビューを飾った子役青木富夫が主役として再起用され、配役名が芸名となってしまった。 ‘29(松竹蒲田)(原)野津忠二(脚)池田忠雄(撮)野村昊、茂原英雄(出)斎藤達雄、青木富夫、坂本武 その夜の妻(65分・35mm・白黒・無声・不完全) 外国小説を翻案映画化したこの作品で小津のモダニズムは更に進化した。子供の治療費のため犯罪に走った男と追う刑事、そして夫をかくまう妻と病床の娘の関係がサスペンス・タッチで描かれる。着物姿や和風の小道具を除けばまるでアメリカの暗黒街映画を思わせる。 ‘30(松竹蒲田)(原)オスカー・シスゴール(脚)野田高梧(撮)茂原英雄(美)脇田世根一(出)岡田時彦、八雲惠美子、市村美津子、山本冬郷、斉藤達雄
淑女と髯(74分・35mm・白黒・無声) 髯が災いして恋にも就職にも縁のない剣道一筋の蛮から大学生が、髯を剃ったことで体験する新たな世界――天下の二枚目にして喜劇センスにも秀でた岡田時彦が主演する爆笑ナンセンス・コメディ。川崎弘子、伊達里子、飯塚敏子がそれぞれ演じる三種の女性像の造形も秀逸。 ‘31(松竹蒲田)(原)(脚)北村小松(ギャグマン)ヂェームス槇(撮)茂原英朗(美)脇田世根一(出)岡田時彦、川崎弘子、飯田蝶子、伊達里子、月田一郎、飯塚敏子、吉川満子、坂本武、斎藤達雄、岡田宗太郎、南條康雄、葛城文子
東京の合唱(90分・35mm・白黒・無声) 不景気の世相を背景に、同僚の解雇に抗議して自分も会社をクビになったサラリーマン(岡田時彦)の悲哀を、コミカルな演出も交えて描いた作品。長女に扮するのは子役時代の高峰秀子。また“小津映画の洋食屋”として印象深い「カロリー軒」の登場にも注目。 ‘31(松竹蒲田)(原)(脚)北村小松、野田高梧(撮)茂原英朗(美)脇田世根一(出)岡田時彦、八雲恵美子、菅原秀雄、高峰秀子、斎藤達雄、飯田蝶子、坂本武、谷麗光、宮島健一、山口勇
大人の見る繪本 生れてはみたけれど(91分・35mm・白黒・無声) しみじみとした味わいを強調した「小市民映画」の代表作。ナンセンス喜劇や青春明朗劇、ハリウッド風の都会劇を得意とした小津であったが、この作品では父の会社の上下関係が子供の世界にまで及ぶ現実を描き、人生の悲哀感を色濃くにじませるようになった。 ‘32(松竹蒲田)(原)ゼェームス槇(脚)伏見晁(撮)茂原英朗(美)河野鷹思(出)斎藤達雄、吉川満子、菅原秀雄、突貫小僧、阪本武、早見照代、加藤清一、小藤田正一、西村青兒、飯島善太郎、藤松正太郎、葉山正雄、佐藤三千雄、林國康、野村秋生、石渡輝秋
青春の夢いまいづこ(85分・35mm・白黒・無声) かつての学友でありながら若社長と社員になった二人の青年。ベーカリーの看板娘(田中絹代)をめぐって友情は揺れる。一連の学生映画の中でも『若き日』『落第はしたけれど』のような屈託のない世界を脱して、世の波に揉まれる人間のほろ苦い側面にも迫った一篇。 ‘32(松竹蒲田)(原)(脚)野田高梧(撮)茂原英朗(出)江川宇礼雄、田中絹代、斎藤達雄、武田春郎、水島亮太郎、大山健二、笠智衆、坂本武、飯田蝶子、葛城文子、伊達里子、二葉かほる、花岡菊子
東京の女(47分・35mm・白黒・無声・不完全) 警察ににらまれた姉の身を案ずる弟の苦悩を描き、時代の行きづまった空気も感じさせる一篇。現存する数少ない岡田嘉子主演の小津作品で、監督自身は、低いアングルなどの画面のポジションはこの頃決まったと回想している。なおシュワルツなる原作者は架空の人物。 ‘33(松竹蒲田)(原)エルンスト・シュワルツ(脚)野田高梧、池田忠雄(撮)茂原英朗(美)金須孝(出)岡田嘉子、江川宇礼雄、田中絹代、奈良眞養 母を恋はずや(72分・35mm・白黒・無声・不完全) 原案の小宮周太郎は小津のペンネームで、没落してゆく一家の物語に異母兄弟の設定を重ね合わせ、複雑な味わいを与えている。飯田蝶子の演じるチャブ屋の掃除婦の演技が印象的。残念ながら、現存する版は冒頭とラストの巻の欠落した不完全版である。 ‘34(松竹蒲田)(原)小宮周太郎(脚)池田忠雄(撮)青木勇(出)岩田祐吉、吉川満子、大日方傳、三井秀男、奈良眞養、青木しのぶ、光川京子、笠智衆、逢初夢子、松井潤子、飯田蝶子、加藤清一、野村秋生
非常線の女(100分・35mm・白黒・無声) 岡譲二と田中絹代を暗黒街の男と情婦に配した異色の和製ギャング映画で、二人は与太者とその可憐な姉を自分の属す悪の世界から救う。若き小津のアメリカ映画好きを窺わせる“洋才”の作品だが、衣裳・美術に至るまで細部のセンスの良さには目を瞠らされる。 ‘33(松竹蒲田)(原)ゼームス槇(脚)池田忠雄(撮)茂原英朗(美)脇田世根一(出)田中絹代、岡譲二、水久保澄子、三井英夫、逢初夢子、高山義郎、加賀晃二、南條康雄、谷麗光、竹村信夫、鹿島俊作、西村青児
出來ごころ(100分・35mm・白黒・無声) 阪本(坂本)武、飯田蝶子、突貫小僧を組み合わせ、池田忠雄脚本を得て作られたいわゆる“喜八もの”の初で、若い二人の恋路に気づいて身を引く喜八の男気を描く人情喜劇の傑作。恋と友情を彩るユーモアが秀逸で、人物像に『和製喧嘩友達』との共通点も見える。 ‘33(松竹蒲田)(原)ジェームス・槇(脚)池田忠雄(撮)杉本正二郎(美)脇田世根一(出)阪本武、伏見信子、大日方傳、飯田蝶子、突貫小僧、谷麗光
浮草物語(86分・35mm・白黒・無声) アメリカ映画に傾倒していた小津は、『チャンプ』(1931年)を翻案した『出來ごころ』に続き、アメリカ作品『煩悩』(1928年)を下敷きに、下町人情劇“喜八もの”の第2作を発表した。ドサ廻りのしがない役者たちが主人公で、哀愁もひときわ強く感じられる。 ‘34(松竹蒲田)(原)ジエームス・槇(脚)池田忠雄(撮)茂原英朗(美)浜田辰雄(出)坂本武、飯田蝶子、三井秀男、八雲理惠子(恵美子)、坪内美子、突貫小僧、谷麗光、西村青兒、山田長正、青野清、油井宗信、平陽光、若宮満、縣秀介、青山万里子、池部光村 *サウンド版/トーキー映画プログラム
東京の宿(80分・35mm・白黒・無声サウンド版) 不況の世の中で必死に生きる二組の親子。思いを寄せる女の病身の娘を救うため犯罪に走る悲劇的結末は、これまでの“喜八もの”としては特異である。原作者名がwithout money(文無し)をもじった小津のユーモアだとしても、時代を反映した暗い気分が全体に漂う。 ‘35(松竹蒲田)(原)ウィンザァト・モネ(脚)池田忠雄、荒田正男(撮)茂原英朗(美)浜田辰雄(音)伊藤宣二(出)坂本武、突貫小僧、末松孝行、岡田嘉子、飯田蝶子、小嶋和子
鏡獅子(24分・35mm・白黒・日本語版) 日本文化の海外への紹介のため、国際文化振興会が松竹に委嘱して六代目尾上菊五郎の踊りを撮影させた、小津唯一の記録映画。この特集では松竹大谷図書館所蔵の日本語版(フィルムセンター所蔵の英語版より長い)を上映する。 ‘36(国際文化振興会=松竹大船)(撮)茂原英雄(出)尾上菊五郎、尾上琴次郎、尾上しげる 淑女は何を忘れたか(71分・35mm・白黒) 恐妻家の大学教授(斎藤達雄)の一家に、大阪からとびきり元気な姪(桑野通子)が飛び込んできて、一騒動を巻き起こすソフィスティケイティッド・コメディの秀作。小津と終生のコンビとなるキャメラマン厚田雄治(雄春)との最初の映画でもある。 ‘37(松竹大船)(脚)伏見晁、ゼームス・槇(撮)茂原英雄、厚田雄治(美)浜田辰雄(音)伊藤宣二(出)栗島すみ子、齋藤達雄、桑野通子、佐野周二、坂本武、飯田蝶子、上原謙、吉川満子、葉山正雄、突貫小僧、鈴木歌子、出雲八重子、立花泰子、大山健二、大塚君代
一人息子(83分・35mm・白黒) 小津の「茂原式トーキー」による第1作で、国産トーキーが出現してから5年後のトーキー進出だった。冒頭に「人生の悲劇の第一幕は親子となったことにはじまっている」と示され、立身出世に敗れた母子の絶望感がラストのかんぬきを下ろされた門に強調されている。 ‘36(松竹大船)(原)ゼームス槇(脚)池田忠雄、荒田正男(撮)杉本正次郎(美)浜田辰雄(音)伊藤宣二(出)飯田蝶子、日守新一、葉山正雄、坪内美子、吉川満子、笠智衆、浪花友子、爆弾小僧、突貫小僧、高松栄子、加藤清一、小島和子、青野清
戸田家の兄妹(105分・35mm・白黒) 中国戦線から帰還した小津の久々の作品は、父の死をきっかけに解体してゆく大家族を描き出した、大船スター総出演の家族劇である。結末のシーンで、薄情な兄や姉を批判する次男(佐分利信)の言葉は、その決然とした態度によって強いカタルシスを感じさせる。 ‘41(松竹大船)(脚)池田忠雄、小津安二郎(撮)厚田雄治(美)浜田辰雄(音)伊藤宣二(出)藤野秀夫、葛城文子、吉川満子、斎藤達雄、三宅邦子、佐分利信、坪内美子、近衞敏明、高峰三枝子、桑野通子、河村黎吉、飯田蝶子、葉山正雄、高木眞由子、岡村文子、笠智衆、坂本武
父ありき(94分・35mm・白黒) 戦時下の唯一の小津作品。男手ひとつで育てながら、別々に暮らさねばならぬ父(笠智衆)と息子(佐野周二)との深い哀歓を描いた小津映画の一つの頂点。近年、ロシアで不完全ながらも音声の優れた35mm版が発見されたが、今回上映されるのは旧来の版である。 ‘42(松竹大船)(脚)池田忠雄、柳井隆雄、小津安二郎(撮)厚田雄治(美)濱田辰雄(音)彩木暁一(出)笠智衆、佐野周二、佐分利信、坂本武、水戸光子、津田晴彦、大塚正義、日守新一、西村青児、谷麗光、河原侃二、倉田勇助、宮島健一、文谷千代子、奈良眞養、大山健二
長屋紳士録(72分・35mm・白黒) 焼け野原で迷った孤児を、文句を言いつつも引き取って面倒を見てやる長屋の心ある人々。シンガポールから引き揚げてきた小津の戦後第1作で、飯田蝶子、河村黎吉、笠智衆といった大船の名優たちが再び結集し、新しい小津世界を築き上げるきっかけとなった。 ‘47(松竹大船)(脚)小津安二郎、池田忠雄(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)斎藤一郎(出)飯田蝶子、青木放屁、小澤榮太郎、吉川滿子、河村黎吉、三村秀子、笠智衆、坂本武、高松榮子、長船フジヨ、河野祐一、谷よしの、殿山泰司、西村青兒
風の中の牝雞(72分・35mm・白黒) 復員後第2作で、幼子の急病と入院のためにやむを得ず一夜身を売った妻(田中絹代)を、戦地から帰った夫(佐野周二)が許すまでを描く。そのテーマ性によって『雪割草』『恋文』といった一連の“戦争と貞操”もの映画に位置付けられてもなお、演出は小津らしく緻密。 ‘48(松竹大船)(脚)齋藤良輔、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)伊藤宜二(出)佐野周二、田中絹代、村田知英子、笠智衆、坂本武、高松榮子、水上令子、文谷千代子、長尾敏之助、中川健三、岡村文子、清水一郎、三井弘次、手代木國男、谷よしの、中川秀人
晩春(108分・35mm・白黒) 小津の戦後3作目で作品評価の高さとともに興行的成功も収めた。やもめの父を気遣って結婚をためらう娘とそれを見守る善意の人々の物語は、その後の小津の作風を決定づけ、復活した脚本家野田とのコンビは遺作の『秋刀魚の味』まで続く。杉村の演技が絶妙。 ‘49(松竹大船)(原)廣津和郎(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)濱田辰雄(音)伊藤宣二(出)笠智衆、原節子、月丘夢路、杉村春子、青木放屁、宇佐美淳、三宅邦子、三島雅夫、坪内美子、桂木洋子、清水一郎、谷崎純、高橋豊子、紅沢葉子
宗方姉妹(97分・35mm・白黒) 大新聞の連載小説として評判を呼んだ同名原作を映画化したもの。死期を悟っている父と古風な姉と勝ち気な妹、姉を疑う病弱な夫と昔の恋人、その青年に思いを寄せる未亡人といった多彩で複雑な人間関係を田中、高峰、上原、高杉らの松竹スターが演じている。 ‘50(新東宝)(原)大佛次郎(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)小原讓治(美)下河原友雄(音)齋藤一郎(出)田中絹代、高峰秀子、上原謙、高杉早苗、笠智衆、山村聰、堀雄二、河村黎吉、齋藤達雄、藤原釜足、坪内美子、一の宮あつ子、堀越節子、千石規子
麦秋(124分・35mm・白黒) 28歳を迎えた娘の結婚話をめぐる家族らの心情を、多彩な人間関係と細部豊かなエピソードで綴った一篇。卓抜なカット割りとシーンつなぎによって、エゴに向き合う人間の孤独と崩れていく大家族への愛おしい思い、新たに生まれる家族への希望が見事に織り重なった。 ‘51(松竹大船)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)濱田辰雄(音)伊藤宣二(出)原節子、笠智衆、淡島千景、三宅邦子、菅井一郎、東山千榮子、佐野周二、杉村春子、二本柳寛、井川邦子、高橋豐子、高堂國典、宮口精二、志賀眞津子、村瀬禅、城澤勇夫
お茶漬の味(115分・35mm・白黒) 生まれや気質の違いゆえに心の通わない中年夫婦が、夫の南米行きを契機に互いの絆を確認しあう。戦時中に映画化できなかった出征前夜の物語を、海外出張という設定に変えて実現。乗り物、娯楽、食べ物など、戦後生活を彩る諸相が随所に散りばめられている。 ‘52(松竹大船)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)齋藤高順(出)佐分利信、木暮實千代、鶴田浩二、笠智衆、淡島千景、津島惠子、三宅邦子、柳永二郎、十朱久雄、望月優子、設楽幸嗣、小園蓉子、志賀眞津子、石川欣一、上原葉子、北原三枝
東京物語(135分・35mm・白黒) 年老いた親が成長した子供たちを訪ねて親子の情愛を確認しあうという題材が、小津の手にかかるとどうなるかを示す傑作。何気ない言動が教える各人の生活、思いがけない心情の吐露と発見、そして何事もなかったような人生の悲哀と深淵が見事に描かれている。 ‘53(松竹大船)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)齋藤高順(出)笠智衆、東山千榮子、原節子、杉村春子、山村聰、三宅邦子、香川京子、東野英治郎、中村伸郎、大坂志郎、十朱久雄、長岡輝子、櫻むつ子、高橋豊子、安部徹、三谷幸子、村瀬禅
早春(144分・35mm・白黒) 通勤電車で顔なじみの丸の内勤めの男女が織りなす哀歓に満ちた人間模様。一児を亡くしてから妻との関係に隙間風が吹く杉山(池部良)とそんな彼を愛する現代娘千代(岸恵子)の不倫を主軸に、戦後10年が過ぎたころのサラリーマンや若者の心情を活写している。 ‘56(松竹大船)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)齋藤高順(出)淡島千景、池部良、高橋貞二、岸惠子、笠智衆、山村聰、藤乃高子、田浦正巳、杉村春子、浦邊粂子、三宅邦子、東野英治郎、三井弘次、加東大介、須賀不二夫、田中春男、中北千枝子、中村伸郎、宮口精二
東京暮色(140分・35mm・白黒) 二人の娘を残して母が去った、男手一つの家庭の物語。妹(有馬稲子)は年下の学生(田浦正巳)の子を身篭り、母の秘密を知り、果ては失意の中で命を落とすという設定で、小津映画の中で、もっとも暗く悲観的な印象を残す、という意味では異色の作品と言える。 ‘57(松竹大船)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)斉藤高順(出)原節子、有馬稲子、笠智衆、山田五十鈴、高橋貞二、田浦正巳、杉村春子、山村聰、信欣三、藤原釜足、中村伸郎、宮口精二、須賀不二夫、浦辺粂子、三好栄子、田中春男、山本和子
彼岸花(118分・35mm・カラー) 自分に相談もせず、結婚相手を決めた娘(有馬稲子)のふるまいに動揺する父親(佐分利信)の姿を描く。娘の結婚を応援する山本富士子の助演も絶妙。初のカラー作品で、監督が好んだドイツのアグファカラーの落ち着いた発色は、以後“小津の色”として定着する。 ‘58(松竹大船)(原)里見トン(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)斉藤高順(出)佐分利信、田中絹代、有馬稲子、久我美子、佐田啓二、高橋貞二、山本富士子、桑野みゆき、笠智衆、浪花千栄子、渡辺文雄、中村伸郎、北竜二、高橋とよ、櫻むつ子
お早よう(94分・35mm・カラー) 近所付き合いの小さな波風にふり回される大人たちと、テレビを買ってとねだり大人を困らせる子供たち。東京郊外の新興住宅地を舞台に、戦後の庶民生活を小津流に活写した作品で、軽さのある演出が際立っている。幼い兄弟のオナラのギャグが実に微笑ましい。 ‘59(松竹大船)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)黛敏郎(出)佐田啓二、久我美子、笠智衆、三宅邦子、杉村春子、設楽幸嗣、島津雅彦、泉京子、高橋とよ、沢村貞子、東野英治郎、長岡輝子、三好栄子、田中春男、大泉滉、須賀富士夫、殿山泰司
浮草(120分・35mm・カラー) 志摩半島の漁村を舞台に、旅回り一座と一膳飯屋の母子らが織り成す人間模様を描いた『浮草物語』の再映画化。色鮮やかな海辺の景色に役者衆の華やかな個性。これが唯一の小津作品となった宮川一夫のカメラと相俟って、落魄の物語に絢爛さを醸し出している。 ‘59(大映京都)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)宮川一夫(美)下河原友雄(音)斉藤高順(出)中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子、野添ひとみ、笠智衆、三井弘次、田中春男、入江洋佑、星ひかる、潮万太郎、浦辺粂子、高橋とよ、桜むつ子
秋日和(128分・35mm・カラー) 亡夫の七回忌を終えた美しい未亡人(原節子)と、婚期を迎えた娘(司葉子)の間に起きる小さな心の波風を繊細に描く名作。取り巻きの紳士たちのユーモアに小津の余裕に満ちた練達の技が見える。『晩春』の父娘関係を母娘に置き換えてカラー化した作品とも言える。 ‘60(松竹大船)(原)里見トン(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)斉藤高順(出)原節子、司葉子、岡田茉莉子、佐田啓二、桑野みゆき、三上真一郎、佐分利信、笠智衆、中村伸郎、三宅邦子、沢村貞子、北竜二、渡辺文雄、千野赫子、高橋とよ
小早川家の秋(103分・35mm・カラー) 伏見で造り酒屋を営む一家の人間ドラマ。小津が宝塚映画に出向して撮った作品で、小津組の常連に東宝の主役級と、キャスティングは豪華。飄々とした関西弁の台詞回しや京の町家の暗がりに匂い立つ寂寥感が、当主のあっけない死をめぐる本作の滋味になっている。 ‘61(宝塚映画)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)中井朝一(美)下河原友雄(音)黛敏郎(出)中村鴈治郎、原節子、司葉子、新珠三千代、小林桂樹、森繁久弥、宝田明、加東大介、団令子、白川由美、山茶花究、藤木悠、笠智衆、杉村春子、望月優子、浪花千栄子、島津雅彦
秋刀魚の味(112分・35mm・カラー) 小津の遺作で、男手一つで育てた娘を嫁に出す父(笠智衆)の気持ち、嫁に行く当の娘(岩下志麻)の心情を細やかに描き出す。仲のいい初老の紳士たち、うらぶれ老いた恩師とその娘、父の海軍時代の部下、戦後的な兄夫婦など、主筋以外の点描も余裕に満ちて見事。 ‘62(松竹大船)(脚)野田高梧、小津安二郎(撮)厚田雄春(美)浜田辰雄(音)斎藤高順(出)岩下志麻、笠智衆、佐田啓二、岡田茉莉子、吉田輝雄、牧紀子、三上真一郎、中村伸郎、東野英治郎、三宅邦子、岸田今日子、加東大介、杉村春子、菅原通済 *関連作品プログラム
限りなき前進(78分・35mm・白黒・改編版) 小津の原作を内田吐夢が監督したもので、謹厳実直に勤めてきた停年間近のサラリーマン(小杉勇)が、昇進の夢が潰えて正気を失っていく悲哀を、繊細かつ残酷に描く。公開時ベストテン1位の作品で、両巨匠の個性と日活多摩川撮影所の実力が如実に現れた。 ‘37(日活多摩川)(監)内田吐夢(原)小津安二郎(脚)八木保太郎(撮)碧川道夫(美)堀保治(音)山田栄一(出)小杉勇、江川宇礼雄、轟夕起子、滝花久子、片山明彦、飛田喜佐夫、紅沢葉子、上代勇吉、東勇路、西春彦
月は上りぬ(102分・35mm・白黒) 『長屋紳士録』の後に斎藤良輔と仕上げた脚本を、日活の本格的製作再開を記念して田中絹代が映画化。奈良に住むやもめの父が三姉妹の結婚話にやきもきする物語で、松竹から移籍して間もない北原三枝と、役名を芸名にしてデビューした安井昌二が主演した。 ‘55(日活)(監)田中絹代(脚)齋藤良輔、小津安二郎(撮)峰重義(美)木村威夫(音)齋藤高順(出)笠智衆、佐野周二、山根壽子、杉葉子、北原三枝、三島耕、安井昌二、田中絹代、増田順二、小田切みき、汐見洋
大根と人参(105分・35mm・カラー) 母を喪った年に撮った『秋刀魚の味』の後、小津が次回作に準備していた原案は、彼の死後に映画化された。初老の同窓会から始まるシーンがわずかに小津映画を偲ばせるが、その人間観はむしろ渋谷・白坂のもの。小津組のスターが勢揃いした正月の記念映画。 ‘65(松竹大船)(監)(脚)澁谷実(原)野田高梧、小津安二郎(脚)白坂依志夫(撮)長岡博之(美)芳野尹孝(音)黛敏郎(出)笠智衆、乙羽信子、加賀まりこ、桑野みゆき、岩下志麻、長門裕之、岡田茉莉子、有馬稲子、司葉子、池部良、加東大介、森光子、三上真一郎、山形勲、中村伸郎、宮口精二、信欣三、勝呂誉、東山千栄子、菅井一郎、三宅邦子、高橋とよ
暖春(93分・35mm・カラー) 小津が長きにわたって親交を深めた里見トンとともに書いた原作を、その死後、中村登が脚色・監督した。小料理屋の娘(岩下志麻)の縁談をめぐる小津好みの物語だが、『秋刀魚の味』の後、岩下は『古都』『紀ノ川』『智恵子抄』といった中村作品で頭角を現した。 ‘66(松竹)(監)(脚)中村登(原)里見トン、小津安二郎(撮)成島東一郎(美)大角純一(音)山本直純(出)岩下志麻、森光子、山形勲、三宅邦子、有島一郎、乙羽信子、長門裕之、早川保、桑野みゆき、倍賞千恵子、川崎敬三、三ツ矢歌子、太田博之、宗方奈美、呉恵美子 ピアノ伴奏者紹介(五十音順) 天池穂高(あまいけ・ほだか) 東京芸術大学音楽学部作曲科を卒業、同大学院を修了。第15回現音作曲新人賞に入選。作品はソロからオーケストラまで幅広く、また邦楽器のためにも作曲を行っている。代表作に松尾葉子の初演指揮による「流動模様~オーケストラのための」、「透明架け橋~能管とオーケストラのための」、「光のトリプティク~ソプラノと室内楽のための」などがある。現在はバレエのレッスン・ピアニストとしても活躍している。 小原孝(おばら・たかし) 国立音楽大学大学院を修了。1990年のCDデビュー以来、「ねこふんじゃったSPECIAL」「ピアノよ歌え」など20枚以上のCDを発表している当代きっての人気ピアニスト。パーソナリティを担当するNHK-FM「弾き語りフォーユー」も好評を博しているほか、エッセイ集も出版。現在、国立音楽大学非常勤講師、川崎市市民文化大使。本年1月にはフィルムセンターの「D・W・グリフィス選集」で演奏を披露した。 小林弘人(こばやし・ひろと) 東京芸術大学音楽学部作曲科を経て、同大学院を修了。管弦楽、舞台音楽などの委嘱作曲・編曲を手がける。1998年東京国際室内楽作曲コンクール第3位入賞、同年より電子音楽の研究を開始。また自作をはじめソロ、室内楽からジャズ、オペラまで幅広いジャンルの演奏活動を続けている。本年1月にはフィルムセンターの「D・W・グリフィス選集」で即興演奏を披露した。現在、東京芸術大学音楽環境創造科非常勤講師。 長谷川慶岳(はせがわ・よしたか) 東京芸術大学音楽学部作曲科、同大学院を修了後、パリ・エコール・ノルマル音楽院作曲専攻最高課程を首席で卒業。第69回日本音楽コンクール作曲(管弦楽)部門入選、第10回奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第2位、またピアノデュオ作品による第5回国際作曲コンクールにて特別賞等を受賞している。本年1月にはフィルムセンターの「D・W・グリフィス選集」で演奏を披露した。現在、大阪音楽大学短期大学部専任講師。 真島圭(ましま・けい) 東京芸術大学音楽学部作曲科卒業、同大学院を修了。朝日作曲賞、現音作曲新人賞、新波の会全日本歌曲コンクール、ピアノデュオ作品による国際作曲コンクール、奏楽堂日本歌曲コンクールなど数多く入選。フリーの作編曲の他、伴奏ピアニストとしてもこれまでに日本声楽家協会、二期会、才能教育研究会などでの活動、多くのソリストや合唱団との共演、劇伴奏、チェンバロ演奏なども行っている。 松村牧亜(まつむら・まきあ) 東京芸術大学音楽学部作曲科卒業、ジュリアード音楽院にて修士号を取得。これまでに東京モーターショー、NHK番組のBGMを手がけた他、米国ABCのドキュメンタリー番組やケーブルテレビ用CM、自主製作映画等、映像媒体への音楽提供を活発に行う。シカゴ交響楽団主催作曲コンクールにて優勝、演奏会用委嘱作品も多数。近年では自己のユニット「M2O」にて演奏活動を展開しつつ、室内楽の伴奏者としても活動の場を広げている。 柳下美恵(やなした・みえ) 無声映画伴奏者。武蔵野音楽大学器楽科(ピアノ専攻)を卒業。会社勤務後、欧米スタイルのピアノ伴奏つき無声映画の伴奏者を目指して研鑽を積む。山形国際ドキュメンタリー映画祭、「光の生誕 リュミエール!」、「ロシア・ソビエト映画祭」などの上映会でも伴奏を担当。アテネ・フランセ文化センターでの無声映画伴奏シリーズ「サウンド・オブ・サイレント」をはじめ、現在も各地の映画祭などで精力的に演奏活動を続けている。フィルムセンターでの演奏は1998年以来となる。 |