大ホール上映作品
特別追悼特集
偉大なる“K”(1):小林正樹
Homage to Three Great "K"s - Part 1: Masaki Kobayashi
上映スケジュール
高い芸術的理想を抱いて優れた日本映画を発表し、生涯を映画に捧げた3人の巨
匠が、過去3年半の間に相次いで世を去りました。
小林正樹、1996年10月4日逝去(80歳)。
黒澤明、1998年9月6日逝去(88歳)。
木下惠介、1998年12月30日逝去(86歳)。
フィルムセンターでは、映画の産業的黄金時代を中心に日本中の人々を魅了しつ
づけ、海外でも“K”で始まる名監督として広く名を知られることとなったこの三人を追
悼し、その作品を現存する最良のプリントででき得る限り多く連続上映することにいた
しました。
世界映画史に大書される偉大な日本映画遺産の数々をご堪能ください。
◆
小林正樹監督(1916年2月14日生まれ)は、1941年、松竹に入社したが、翌年に
は出征、復帰したのは戦後46年で、4歳年上ですでに活躍中の木下惠介監督に師
事し、52年「息子の青春」でデビューするまで助監督を務めた。未曾有の大作「人間
の條件」(1959年~61年)で国際的な評価を受けてからは、「切腹」(1962年)「怪談」
(1964年)など、一 作ごとに注目を浴びる世界の巨匠の仲間入りを果たした。完全主
義ゆえの寡作でも知られたが、その映画世界は日本映画の一つの到達点を示してい
る。
■(原)=原作・原案 (脚)=脚本・脚色・潤色 (撮)=撮影 (美)=美術 (音)=音楽
(解)=ナレーター (出)=出演
■本特集には不完全なプリントが含まれています。
■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。
■作品により開映時間が異なりますのでご注意ください。
*「特別追悼特集 偉大なる“K”」は3部構成となり、今回の第1期に続いて、第2期(黒澤明監督)は
5月30日~7月29日、第3期(木下恵介監督)は8月8日~9月23日/10月3日?11月18日に
開催します。第2期・第3期の詳細は、「NFCカレンダー6-7月号」と「NFCカレンダー8-11月号」に掲
載されます。
K-1 |
4/4(火)3:00pm |
4/18(火)6:30pm |
息子の青春
(45分・35mm・白黒)
新人監督の登竜門であった中篇映画を当時、松竹ではSP(シスター)映画と呼んで
いた。思春期を迎えた兄弟。父は小説家、母は家庭の切り盛りに忙しい。ガールフレ
ンドと歌舞伎見物に出かける兄、喧嘩にまきこまれて警察に保護される弟、そんな二
人の姿を暖かく見守る夫妻。平凡な日常生活を表情豊かに、瑞々しい感覚で描いた
秀作である。木下恵介監督の門下であった小林正樹は、この作品で有望な新人とし
てその名前を知られることになった。
'52(松竹大船)(原)林房雄(脚)中村定郎(撮)高村倉太郎(美)中村公彦(音)木下忠司
(出)三宅邦子、北龍二、石浜朗、小園蓉子、笠智衆、藤原元二、磯貝元男、野戸成
晃、新島勉、諸角啓二郎、島村俊雄、土田桂司、高瀬進、志摩良子、八乙女信子
まごころ
(95分・35mm・白黒)
勉強部屋から窓越しに見えるアパートの少女。慶大受験を控えた少年は、胸の病に
苦しむその少女を見続けるうちに、淡い恋情を感じるようになっていった。言葉も交わ
したことのない彼女の療養費の負担を、強引に会社経営者である父に頼み、猛勉強
に励む少年だったが……。貧富の差という現実を背景に、思春期の心の揺らぎを細やか
にそして詩情豊かに描きだした佳作。小林正樹は師、木下恵介のオリジナル・シナリ
オに見事に応えている。
'53(松竹大船)(脚)木下惠介(撮)森田俊保(美)平高主計(音)木下忠司(出)田中絹代、
津島惠子、高橋貞二、石浜朗、三橋達也、淡路惠子、野添ひとみ、須賀不二夫、千
田是也、東山千栄子、永田靖、高松栄子、水上令子、大塚正義、藤原元二、長塚安
司、今井金太郎
K-2 |
4/4(火)6:30pm |
4/18(火)3:00pm |
三つの愛
(114分・35mm・白黒)
自ら書き下したオリジナル・シナリオ「歓喜に寄せる」の映画化で、高原でのロケーショ
ン撮影を基調にした作品。ひたむきに野鳥を愛する精神薄弱の少年とその周囲の人
物をめぐって、男女の恋愛、子を思う親の愛、神の愛、裏切った妻を許す夫の愛とい
った様々な《愛》の概念が交錯してゆく。「大船調」の家族劇へのアンチテーゼとして、
自ら「ピューリタンな写真を作ってやろう」と決意した監督の人間探究的な姿勢が現わ
れている。
'54(松竹大船)(脚)小林正樹(撮)井上晴二(美)平高主計(音)木下忠司(出)山田五十
鈴、岸惠子、三島耕、伊藤雄之助、山形勲、森昭治、日守新一、望月優子、櫻むつ
子、進藤英太郎、細谷一郎、川口憲一郎、遠山文雄、武田法一、末永功、峰久子
K-3 |
4/5(水)3:00pm |
4/19(水)6:30pm |
この広い空のどこかに
(109分・35mm・白黒)
どこにでもある町の酒屋。働き者の若主人と嫁いできたばかりのその妻。一緒に暮ら
すのは若主人にとって亡くなった父の後妻である義理の母と、その子供である妹と弟
。気がかりは戦争で足を悪くして家に引きこもりがちな妹。そんな平凡な家族でおこる
ささやかな誤解とやがて来る和解。人物の感情の流れを細やかに、かつ鮮やかにとら
えたホーム・ドラマの名作。小林正樹が松竹の「正嫡」であることを告げた作品ともいえ
よう。
'54(松竹大船)(脚)楠田芳子、松山善太(撮)森田俊保(美)平高主計(音)木下忠司(出)
佐田啓二、久我美子、高峰秀子、石浜朗、大木実、小林トシ子、田浦正巳、浦辺粂
子、中北千枝子、三好栄子、日守新一、内田良平、野辺かほる、岡田和子
K-4 |
4/5(水)6:30pm |
4/19(水)3:00pm |
美わしき歳月
(125分・16mm・白黒)
花屋を営む祖母と美しい孫娘。彼女を取り巻く3人の青年は、戦死した娘の兄の同級
生だった。社会の混乱期を医者、労働者、バンドのドラマーとして生きる若者たち。小
林正樹は彼らばかりでなく、偶然に祖母と知り合う老紳士を登場させることで、「戦後」
に対する世代差も視野におさめた重厚な作品に仕上げている。当時流行のアプレゲ
ールなどの風俗現象に逃げない内省的な姿勢は、脚本を書いた松山善三にも共通
するものだった。
'55(松竹大船)(脚)松山善三(撮)森田俊保(美)平高主計(音)木下忠司(出)久我美子、
木村功、佐田啓二、織本順吉、田村秋子、小沢栄、小林トシ子、野添ひとみ、東野英
治郎、沢村貞子、石黒達也、佐竹明夫、須賀不二夫、山形勲
K-5 |
4/6(木)3:00pm |
4/20(木)6:30pm |
壁あつき部屋
(110分・35mm・白黒)
今次大戦の指導的立場にあったA級戦犯とは別に、いわれなき理由でBC級戦犯の
汚名を着せられた人々の手記から、芥川賞を受賞して間もない安部公房がシナリオ
を構成した。大学卒業後、大船撮影所に所属したものの軍隊にとられて5年を過ごし
、最後の1年は沖縄で捕虜生活を余儀なくされたという経験を持つ小林監督が、第3
作として発表した意欲作。以後の作風を決定するともいえるこの作品は、政治的配慮
からか公開は3年後のこととなった。
'56(新鋭プロ)(脚)安部公房(撮)楠田浩之(美)中村公彦(音)木下忠司(出)三島耕、浜
田寅彦、岸惠子、小林トシ子、小沢栄、信欣三、伊藤雄之助、下元勉、三井弘次、望
月優子、北龍二、内田良平、永井智雄、林幹、横山運平、早野壽郎、井上昭文、道
三重道、纓片達雄、土方弘
K-6 |
4/6(木)6:30pm |
4/20(木)3:00pm |
あなた買います
(112分・35mm・白黒)
戦後の大衆スポーツとして絶大な人気を誇ったプロ野球。優秀な新人選手を獲得す
るため金銭のみならずあの手この手を駆使したスカウト合戦は当時の社会問題となっ
ていた。そんなドス黒い裏社会を描いた原作を、木下門下の弟弟子である松山善三
がダイナミックな構成で脚色し、小林は重厚なドキュメンタリー・タッチで映画化にあた
った。人気スターの佐田や岸のシリアスな演技と、ベテラン俳優の伊藤や三井たちの
絶妙な演技が見所である。
'56(松竹大船)(原)小野稔(脚)松山善三(撮)厚田雄春(美)平高主計(音)木下忠司(出)
佐田啓二、岸惠子、大木実、伊藤雄之助、水戸光子、東野英治郎、三井弘次、多々
良純、石黒達也、須賀不二夫、佐々木孝丸、山茶花究、十朱久雄、谷崎純
K-7 |
4/7(金)3:00pm |
4/21(金)6:30pm |
泉
(129分・16mm・白黒)
原作は岸田国士が1939年に発表した小説で、実業家の秘書(有馬稲子)と彼女に思
いを寄せる若い植物学者(佐田啓二)、そして彼を慕う女性(桂木洋子)との感情のす
れ違いを、浅間山麓の高原や紀州の海岸などの自然を背景に描く。監督は、岸田の
「知的な珠玉のような会話」を映画に移植することの困難を感じながらも、撮影現場で
は「難解だった方程式がとけてゆくよう」であったと語っている。
'56(松竹大船)(原)岸田国士(脚)松山善三(撮)森田俊保(美)平高主計(音)木下忠司
(出)佐分利信、有馬稲子、佐田啓二、渡辺文雄、内田良平、桂木洋子、中川弘子、
加東大介、小川虎之助、夏川静江、織田政雄、三戸部スエ、下元勉、小林トシ子
K-8 |
4/7(金)6:30pm |
4/21(金)3:00pm |
黒い河
(110分・35mm・白黒)
壊れかかったアパートに一人の大学生(渡辺文雄)が引越してきた。そこへ不良(仲
代達矢)の率いる愚連隊が、米兵向けのキャバレーを建てるためアパートの住人たち
に強引に立ち退きを迫り、さらにその不良は大学生を慕う若い女(有馬稲子)をも力づ
くで奪ってしまうが……。基地問題を背景として、日本映画の新たな風景描写に正面から
挑んだこの作品は、また仲代達矢の出世作としても重要である。
'57(松竹大船)(原)冨島健夫(脚)松山善三(撮)厚田雄春(美)平高主計(音)木下忠司
(出)有馬稲子、渡辺文雄、仲代達矢、山田五十鈴、桂木洋子、淡路惠子、東野英治
郎、宮口精二、清水将夫、高橋とよ、賀原夏子、三好栄子、永井智雄、佐野浅夫
K-9 |
4/8(土)1:00pm |
5/4(木・祝)1:00pm |
人間の條件 第一部・第二部
(206分・35mm・白黒)
五味川純平の同名小説を、完結篇にあたる第5・6部まで、全9時間30分におよぶ
巨大な戦争叙事詩として映画化したその緒篇。戦争に疑問を持つ梶(仲代達矢)は、
兵役を逃れて妻美千子(新珠三千代)とともに満鉄調査部から老虎嶺鉱山に移り、労
務管理の職を得る。劣悪な現場の環境に義憤を覚え、さまざまな横暴や理不尽と闘う
彼は、結果的に上層部や軍の反感を買い、凄惨なリンチを受けた後、臨時召集令状
を受け取る……。元来、社会と人間の関係に興味があったという小林の感受性に、自身
の長い軍隊生活の体験が結びついて生まれた作品で、'60年ヴェネチア映画祭サン・
ジョルジョ賞を受賞。
'59(にんじんくらぶ)(原)五味川純平(脚)松山善三、小林正樹(撮)宮島義勇(美)平高
主計(音)木下忠司(出)仲代達矢、新珠三千代、淡島千景、有馬稲子、佐田啓二、山
村聰、石浜朗、南原伸二、宮口精二、安部徹、三島雅夫、小沢栄太郎、三井弘次、
河野秋武、中村伸郎、山茶花究
K-10 |
4/15(土)1:00pm |
5/5(金・祝)1:00pm |
人間の條件 第三部・第四部
(178分・35mm・白黒)
厳寒の北満。梶は関東軍に配属され辛酸をなめる。そんな中で、思想犯を兄に持つ
同じ初年兵の新城が脱走する。梶はその後、ソ満国境の青雲台地に移されて上等兵
となり、寺田二等兵らの部下を任される。再会した旧友影山少尉の計らいで前線を離
れるが、当の影山は玉砕する。再び前線に戻されて戦車壕を掘る梶らの前にソ連軍
の戦車部隊がやってくる……。妻美千子との短い逢瀬が美しく切ない。
*本篇上映の前に「人間の條件 第一部 第二部 梗概」(5分)を上映。
'59(人間プロ)(原)五味川純平(脚)松山善三、小林正樹(撮)宮島義勇(美)平高主計
(音)木下忠司(出)第三部:仲代達矢、新珠三千代、桂小金治、多々良純、南道郎、佐
藤慶、田中邦衛、内田良平、柳谷寛、植村謙二郎、岩崎加根子、倉田マユミ、内藤
武敏/第四部:仲代達矢、佐田啓二、川津祐介、藤田進、千秋実、安井昌二、渡辺
文雄、浜村純、小林昭二、諸角啓二郎、早野壽郎、井上昭文、牧真史
K-11 |
4/22(土)1:00pm |
5/6(土)1:00pm |
人間の條件 第五部・第六部
(190分・35mm・白黒)
ソ連軍の攻撃に辛くも生き残った梶だったが、あてもなく彷徨ううちに、避難民たちと
合流し、さらなる危険にさらされていく。ソ連の捕虜となった彼は雪の大地に倒れる。
1960年12月にクランクアップとなるまでに3年以上の歳月を費やしたこの5万フィー
トに達する長大な力作は、多くの人々を感動させ、また監督の名をカナダをはじめ世
界に知らしめる契機となった。かつては「オールナイト上映」の定番としてしばしば全6
部が一挙に上映された。
*本篇上映の前に「人間の條件 第一・二・三・四部 梗概」(7分)を上映。
'61(にんじんくらぶ)(原)五味川純平(脚)松山善三、稲垣公一、小林正樹(撮)宮島義
勇(美)平高主計(音)木下忠司(出)仲代達矢、新珠三千代、中村玉緒、高峰秀子、川
津祐介、笠智衆、内藤武敏、岸田今日子、瞳麗子、諸角啓二郎、清村耕次、金子信
雄
K-12 |
4/11(火)3:00pm |
4/25(火)6:30pm |
からみ合い
(108分・35mm・白黒)
自らの死期を悟った会社社長(山村聰)が、財産を相続させるため、入籍しなかった3
人の子供たちを探し出すよう部下たちに命じる。財産を狙う部下たちはそれぞれ策略
をめぐらせ、虚々実々の争いを繰り広げるが……。監督にとって作曲家武満徹との出会
いとなった映画であり、また脚本の稲垣公一は、自らも参加した「人間の條件」の主人
公梶の生き様が灼熱の「夏を想わせる」のと対比して、この作品を「頽落する秋の物語
」であると記している。
'62(にんじんくらぶ=松竹大船)(原)南条範夫(脚)稲垣公一(撮)川又昂(美)戸田重昌
(音)武満徹(出)山村聰、渡辺美佐子、千秋実、岸恵子、宮口精二、仲代達矢、滝沢
修、浜村純、北龍二、川津祐介、川口敦子、芳村真理、千石規子、菅井きん、信欣三
、佐藤慶
K-13 |
4/11(火)6:30pm |
4/25(火)3:00pm |
切腹
(134分・35mm・白黒)
寛永7(1630)年。井伊家上屋敷の庭先で切腹を申し出る浪人津雲半四郎。不埒な
浪人が切腹を理由に金品を得ようとする昨今の風潮に批判的な家老斉藤勘解由を
前に、半四郎は以前同じようにここへ現われて是非もなく腹を切らされた娘婿のことを
話し始める……。脚本、撮影、美術、編集、音楽、演技のすべてに完全主義が貫かれ
ており、重厚にして巧緻、またスタイリッシュでもある小林映画の真骨頂をみせる。カン
ヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞。
'62(松竹京都)(原)滝口康彦(脚)橋本忍(撮)宮島義勇(美)戸田重昌、大角純平(音)武
滿徹(出)仲代達矢、石浜朗、岩下志麻、丹波哲郎、三国連太郎、三島雅夫、中谷一
郎、佐藤慶、稲葉義男、井川比佐志、武内亨、青木義朗、松村達雄、小林昭二
K-14 |
4/12(水)3:00pm |
4/26(水)6:30pm |
怪談
(161分・35mm・カラー)
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の残した怪奇譚から、「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話
」「茶碗の中」の四編を水木洋子が脚本に構成して映画化されたエピソード・フィルム
で、出品されたカンヌ国際映画祭では審査員特別賞を受賞した。「ブリリアントではあ
るが時に冷徹なまでに分析的な演出」(ヴァラエティ紙)といった批評が書かれたほど
、幻想的な色彩の表現や実験的な音の使用も含めすべてが細部にわたって計算さ
れつくされている。
'64(にんじんくらぶ)(原)小泉八雲(脚)水木洋子(撮)宮島義勇(美)戸田重昌(音)武満
徹(出)第一話「黒髪」:新珠三千代、渡辺美佐子、三国連太郎、石山健二郎、赤木蘭
子/第二話「雪女」:仲代達矢、岸恵子、望月優子、菅井きん、千石規子/第三話「
耳無し芳一の話」:中村賀津雄、丹波哲郎、志村喬、林与一、村松英子、田中邦衛/
第四話「茶碗の中」:中村翫右衛門、滝沢修、杉村春子、中村雁治郎、仲谷昇、宮口
精二
K-15 |
4/12(水)6:30pm |
4/26(水)3:00pm |
上意討ち -拝領妻始末-
(121分・35mm・白黒)
初の時代劇「切腹」は国内外で高い評価を受けた。次作の「怪談」とともにカンヌ国際
映画審査員特別賞を連続受賞したが、時代劇3作目で三船プロ第1回作のこの作品
でも、ヴェネチア国際映画祭で国際映画批評家連盟賞の栄誉を受けた。主君のわが
ままや藩の身勝手さに腹をたてた忠義者が、周りの者の忠告を無視して息子とともに
上意討ちの一隊に立ち向かう。小林作品に顕著な、理不尽なことに対する怒りが重
厚に描かれている。タシケント映画祭作品賞。キネマ旬報ベストテン第1位。
'67(東宝=三船プロ)(原)滝口康彦(脚)橋本忍(撮)山田一夫(美)村木与四郎(音)武満
徹(出)三船敏郎、司葉子、加藤剛、仲代達矢、神山繁、三島雅夫、山形勲、江原達
怡、松村達雄、佐々木孝丸、浜村純、市原悦子、大塚道子、山岡久乃、日塔智子
K-16 |
4/13(木)3:00pm |
4/27(木)6:30pm |
日本の青春
(129分・35mm・白黒)
遠藤周作が中年男の戦中・戦後史をほろ苦いユーモアで描いた小説「どっこいショ」
の映画化。学徒出陣の経験をもつ男が20年ぶりに初恋の人とリンチを加えた上官に
再会、戦後日本の歪んだ社会状況と人間関係が浮きぼりにされていく。戦争とともに
消えてしまった青春を、小林監督は自分史と重ね合せるかのように描いている。善良
な中年男の哀感を喜劇俳優の藤田まことが見事に演じ、また、白黒撮影による鬱屈し
た人間描写が素晴しい。
'68(東京映画)(原)遠藤周作(脚)廣澤榮(撮)岡崎宏三(美)小島基司(音)武満徹(出)藤
田まこと、新珠三千代、黒沢年男、酒井和歌子、佐藤慶、田中邦衛、奈良岡朋子、花
沢徳衛、武内享、山本清、菅貫太郎、橋本功、児玉泰次、田中幸四郎
K-17 |
4/13(木)6:30pm |
4/27(木)3:00pm |
いのち・ぼうにふろう
(121分・35mm・白黒)
山本周五郎原作の「深川安楽亭」を仲代達矢夫人の隆巴が脚色。四方を掘割に囲ま
れた一軒の居酒屋を舞台に、世間からつまはじきにされた男たちの、たった一度の善
意の成就に命をかける様が、重厚な演出で描かれている。翫右衛門、勝、仲代らの
個性豊かな演技派俳優の競演もさることながら、室内劇の中心となる安楽亭のセット
の見事さと、粗野ではあるが心優しい人間群像と荒涼とした野外を描写した白黒撮影
が作品に花を添える。伊・タオルミナ国際映画祭審査員特別賞受賞。
'71(東宝=俳優座)(原)山本周五郎(脚)隆巴(撮)岡崎宏三(美)水谷浩(音)武満徹(出)
仲代達矢、栗原小巻、酒井和歌子、中村翫右衛門、勝新太郎、神山繁、佐藤慶、山
本圭、中谷一郎、滝田裕介、近藤洋介、岸田森、山谷初男、植田峻、草野大悟、三
島雅夫
化石
(201分・35mm・カラー)
公開時のパンフレットに掲載された述懐によれば、黒澤、木下、市川監督とともに旗
揚げした「四騎の会」がTV用の企画を各々受け持つことになり、小林監督は朝日新
聞に2年近く連載された同名原作の映画化を熱望した。フジテレビで8回(1時間枠)
放映された後、16ミリから35ミリへのブローアップと再編集をほどこし、念願の劇場公
開にこぎつけた。死を目前にした老人の心象風景が、水墨画のようなカラー撮影で見
事にとらえられている。
'75(俳優座=四騎の会)(原)井上靖(脚)稲垣俊、よしだたけし(撮)岡崎宏三(音)武満
徹(出)佐分利信、岸恵子、井川比佐志、山本圭、栗原小巻、小川真由美、佐藤オリエ
、宇野重吉、宮口精二、杉村春子、稲葉義男、武内亨、横森久志、袋正
燃える秋
(137分・35mm・カラー)
映画産業の衰退にともなって、映画外企業からの出資による製作が盛んになり、この
作品では老舗デパートの協力をあおいでいる。老年の画廊経営者との愛人関係を清
算し、自立を願うヒロインが出会ったのは、世界を駆け回る若き商社マンであった。京
都やテヘランといった古い歴史・文化に彩どられた場所を舞台に、自立する女性の愛
と葛藤が描かれている。「化石」で描かれた心象風景を小林監督流のメロドラマにした
作品ともいえよう。
'78(三越=東宝)(原)五木寛之(脚)稲垣俊(撮)岡崎宏三(美)村木忍(音)武満徹(出)真
野響子、佐分利信、北大路欣也、小川真由美、上条恒彦、三田佳子、芦田伸介、井
川比佐志、モアフィ、カーベ
東京裁判
(277分・35mm・白黒)
この作品は、大手出版社「講談社」の創立70周年記念事業として企画された。満州
事変から太平洋戦争終結までの17年以上にもおよぶ今次大戦後、敗戦国日本が戦
勝国連合によって裁かれた「極東国際軍事裁判」では、戦争指導者と目された約100
名のうちA級戦犯28名の2年半におよぶ審理が行われ、結果として7名の絞首刑
が執行されたが、その裁判記録と各事件に関連する当時の記録映像を駆使し、5年
の歳月を費やした大作である。旧フィルムセンターの編集室で、小林監督が助手とと
もに10日間ほど所蔵する映像資料を丹念に調査されたありし日々が思い出される。
ベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。
'83(講談社)(原)稲垣俊(脚)小林正樹、小笠原清編浦岡敬一(音)武満徹(解)佐藤慶
K-21 |
4/14(金)6:30pm |
4/28(金)3:00pm |
食卓のない家
(145分・35mm・カラー)
1972年2月に発生したいわゆる「連合赤軍・浅間山荘事件」は、日本中の耳目を釘
付けにしたが、それをモチーフにして円地文子が小説を発表して話題となった。同名
原作を映画化したこの作品は、事件の犯人となった息子をめぐり、会社部長一家の苦
悩と離散がそれぞれの立場から描かれている。一貫して人間の魂の拠り所を描き続
けてきた小林監督は、熱望していた「敦煌」や「会津八一」の映画化を果たせないまま
、これが遺作となってしまった。
'85(MARUGENビル)(原)円地文子(脚)小林正樹(撮)岡崎宏三(美)戸田重昌(音)武満
徹(出)仲代達矢、小川真由美、中井貴恵、中井貴一、大竹しのぶ、平幹二朗、岩下
志麻、真野あずさ、隆大介、竹本孝之、益岡徹、佐野浅夫、福田豊土、小林昭二、浜
田寅彦