The National Museum of Modern Art, Tokyo
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マイケル・フレンド講演会
「映画保存とデジタル技術:来るべきシネマの千年王国」
Lecture by Michael Friend (Director, Academy Film Archive):
"Preserving the Cinema For the Next Millennium"
アカデミー・フィルム・アーカイヴ所長マイケル・フレンド氏が、映画保存と
デジタル技術の関係について考察します。アメリカ映画「陽気な踊子」のフル
デジタル復元に際し、アーキヴィストの立場から中心的な役割を担った氏の話
は、伝統的なフィルム信奉者にも、未来指向のデジタル技術者にも刺激的な議
論の基礎を提供することでしょう。どうぞお誘い合わせの上ご来館下さい。
- 期日:
- 11月1日(土)午後1時~4時(予定)
- 会場:
- 大ホール
- 開場:
- 午後12時30分
- 入場無料
- (先着順、定員300名、定員になり次第締切)
- 使用言語:
- 英語/日本語(同時通訳あり)
◎講師からのメッセージ
◇追悼の映画、追憶の映画--私たちのかつて知っていた映画(シネ
マ)は死んだ、とニューヨーク・タイムズ・マガジンに寄せた記事の中で、スー
ザン・ソンタグは示唆しています。その誕生から百年、映画は「20世紀の芸術
形態」としての地位を失い、私たちもまた、現代における唯一無比の視覚芸術
とみなすことはなくなりました。映画に加えビデオ、あるいはCGなどの電子芸
術によって高度に階層化し多様化した「映像の世界」が、私たちの視覚環境を
形成しているのです。
だからこそ、映画の時代が完全に終わりを告げる前に、「映画とは何か?」
「映画保存における真の問題点は何か?」「それらの解決策は何か?」といっ
た問いに答えを見つけ出さなければならないのです。映画は固有の美学とその
変遷、そして技術的発達の諸相によって定義づけられています。しかしながら、
競合する“動く映像”の様々な形態(テレビ、ビデオ、電子メディア)の出現
とともに、映画の特性は、“媒体への非依存(platform independence)”とい
うイデオロギーのもとに忘れ去られ、隠蔽されてしまいました。映像=ソフト
ウェアという概念は、あたかも霊魂のようにいかなるハードウェア環境も表示
システムをも飛び越えて伝播し、映画の持つはかなくも固有の質感を覆い尽く
してしまうのです。事ここに至って私たちは、映像の持つすべての質感、つま
り他の媒体への変換時に欠落してしまうような質感をも含めて保護するために、
映画を映画として保存することの必要性を認識しなければならなくなったので
す。
◇映画保存運動の歴史--体系的な映画保存へむけての最初の呼びか
けは1898年になされています。また生フィルムの経年劣化やフィルム上のイメー
ジ消失は1915年には早くも技術的な問題として認識されていました。1920年代
末までには映画産業を有する多くの国々で、特に重要な映画作品の公共機関に
よる収集を求めるフィルム・アーカイヴ運動が起きていますが、当時の運動は、
映画に芸術としての地位を確立させること、そして映画が生き残っていくため
の組織的な取組みの方法を作り上げることを、その努力目標にしていました。
一方、1960年代末に沸き起こったフィルム・アーカイヴ運動のリバイバルは、
映画保存の当面する問題が技術上の問題であるとの認識のうえに起こったもの
でした。そこで取り上げられたのは、とりわけ可燃性(ナイトレート)フィル
ムの劣化であり、その結果として無声映画時代の作品が失われていくことだっ
たのです。そして時を経て今日、私たちは過去40年に作られた作品の方が、映
画史初期の作品の保存よりも大きな問題をはらんでいることを認めざるを得ま
せん。1950年代以降に失われた作品はそれ以前に比べると決定的に少ないとは
いえ、あまたの技術的な問題に加えて、現在私たちは映像の質感(イメージ・
クォリティ)の喪失といういっそうやっかいな問題に直面しているわけです。
その結果、映画保存の主眼は単純な作品収集から、映画映像の最も精緻な特性
を保存復元するという困難な作業へと移行して来ているのです。
◇映画保存の新しい道具/希望と不安--19世紀および20世紀に作り
出されたメディアを保存するのが難しい理由は、ごく最近までそうした媒体に
まつわる深刻な技術的・哲学的諸問題が真っ当には理解されなかったことにあ
ります。そして私たちは今、アナログの芸術形態である映画の保存にデジタル
技術を援用しようとしています。映画の特性をあますことなく捉え、なおかつ
真正な映像と年月がフィルムに加えた傷とを分離したうえで、また元の媒体に
再変換し、その作品が公開された当時のレベルにまで復元するための機器が開
発されなければなりません。そのためには、映画の持つ歴史的要素とその映像
の特性に関する深い知識と理解が要求されるのです。
この講演では、今日までの映画保存技術の発展を、歴史的・美学的・哲学的
問題に焦点を当てながら辿っていくつもりです。そしてデジタル映画復元の手
法についても、「陽気な踊子」をはじめとするいくつかの実例を35ミリの参考
フィルムをお見せしながら言及したいと思っています。
マイケル・フレンド氏の略歴
アカデミー・フィルム・アーカイヴ所長。1974年、カリフォルニア大学バーク
レー校卒業後、同大ロサンゼルス校(UCLA)演劇映画テレビ学部助手の職につ
きながら、'78年、同学部の映画テレビ史・理論評論学コースの修士号を取得。
パリ大学に学んだ後、'81年、UCLAの前述コース博士課程を終了。西海岸の映
画テレビ界、学会でのさまざまなコンサルタント業務を経て、'86年から'90年
まで、アメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)付属・全米映画テ
レビ保存センター(NCFVP)保存部門次長として、その映画保存プログラム、
全米映像データベース(NAMID)プロジェクト、AFIカタログの作成等を指導し
た。ソニー/コロンビア、アップル・コンピュータ、MCA/ユニバーサル等の
映像保存関係コンサルタントを経て、'91年から現職。アカデミー・フィルム・
アーカイヴの代表として、また、個人としてFIAFのさまざまな活動にも積極的
に参加している。なお、映画保存とデジタル技術に関する氏の先駆的な論文、
"Film/Digital/Film"は、NFCニューズレター第7号に、「映画保存の近未来:
フィルムとデジタルの関係」として訳出されている。1950年生まれ。